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長年経理を担ってきたご家族や事務員さんが、引退や退職で経理から離れる。小規模な会社や個人事業では珍しくない出来事ですが、社長が経理の中身を把握していないと、思わぬところで支払が漏れたり、入金が遅れたりします。
このとき最初に守るべきなのは、お金の流れを止めないことです。帳簿付けは、少し遅れても後から取り戻せます。しかし、税金の納付漏れ、給与の遅れ、請求書の出し忘れは、延滞金や信用の低下という形で、すぐに影響が出ます。
この記事では、経理担当者が抜けた直後にやるべきことを、お金の流れに沿って順に説明します。
1 お金を動かす手段が手元にあるかを確かめる
支払や入金の予定を調べる前に、お金を動かす手段が社長の手元にあるかを確認します。「経理担当者だけが知っていた」という状態が、いちばん危険です。
- 通帳と銀行届出印の保管場所
- インターネットバンキングのログインID・パスワードと、振込の承認権限
- 口座振替(自動引落し)にしている支払の一覧
- 会計ソフト・給与ソフトのログイン情報
- 請求書・納付書・領収書などの書類の置き場所
- 仕入先・得意先・役所の担当者の連絡先
インターネットバンキングは、利用者の登録や承認者の設定が、担当者個人に紐付いていることがあります。退職後に振込ができなくなる例もあるため、担当者が在籍しているうちに、銀行で利用者の変更手続を済ませておくのが安全です。すでに退職している場合も、可能な範囲で連絡を取り、確認させてもらいましょう。
2 いつ、何の支払が、いくらあるか
次に、これから先の支払を一覧にします。手がかりは、通帳(過去1年分)、届いている請求書・納付書、給与台帳です。
通帳を1年分さかのぼると、毎月決まって出ていく支払と、年に数回だけの支払が見えてきます。引落しや振込の摘要欄には支払先の名前が印字されているので、一行ずつ「これは何の支払か」を確かめていきます。
毎月の支払
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| 時期 | 支払先 | 内容 | 金額の目安 |
|---|---|---|---|
| 毎月10日 | 税務署 | 源泉所得税(※) | 前月に給与・報酬から差し引いた額 |
| 毎月10日 | 市町 | 住民税の特別徴収(※) | 市町から届く通知のとおり |
| 毎月25日など | 従業員 | 給与 | 給与台帳のとおり |
| 毎月末日 | 年金事務所 | 社会保険料(前月分) | 届く通知のとおり(多くは口座振替) |
| 毎月末日など | 仕入先・外注先 | 仕入代金・外注費 | 請求書のとおり |
| 毎月 | 家主・リース会社など | 家賃・リース料 | 契約のとおり |
※ 従業員が10人未満で「納期の特例」を受けている場合、源泉所得税は年2回(7月10日・1月20日)、住民税の特別徴収は年2回(6月10日・12月10日)の納付になります。特例を受けているかどうかは、過去の納付書の控えで確認できます。
請求書が届かない支払に注意
税金は、仕入先のように請求書を送ってくれません。期限を知っている人が納付書を用意し、期限までに納めることが前提になっています。経理担当者がこれを覚えていた場合、退職とともに期限の情報も失われます。特に、年に一度だけの支払は漏れやすいので、次のものを年間の予定に書き込んでください。
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| 時期 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 1月31日 | 法定調書合計表・給与支払報告書の提出、償却資産の申告 | 法人・個人 |
| 3月15日 | 所得税の確定申告・納付 | 個人事業主 |
| 3月31日 | 消費税の確定申告・納付 | 個人事業主(課税事業者) |
| 年4回 | 固定資産税(納期は市町ごとに異なります) | 不動産・償却資産を持つ方 |
| 5月31日 | 自動車税 | 自動車を持つ方 |
| 6月1日〜7月10日 | 労働保険の年度更新 | 従業員を雇っている方 |
| 7月・11月 | 所得税の予定納税 | 個人事業主(通知が届いた方) |
| 決算日の翌日から2か月以内 | 法人税・消費税などの確定申告・納付 | 法人 |
| 期首から6か月経過後2か月以内 | 法人税・消費税などの中間申告・納付 | 法人(前期の税額が一定以上の場合) |
| 12月〜翌1月 | 年末調整 | 給与を支払っている方 |
期限が土曜・日曜・祝日にあたるときは、原則として翌平日が期限になります。消費税の中間申告は、前期の税額によって年1回・3回・11回となる場合があり、それぞれ申告・納付期限が異なります。前期の申告書の控えや、税務署から届いた書類を確認しておきましょう。
3 いつ、どこから、いくら入ってくるか
支払の次は、入金の予定です。得意先ごとに、締め日と入金日、毎月の入金額のおおよそを、通帳と過去の請求書の控えから拾い出します。
請求書の発行を止めない
ここで見落とされがちなのが、請求書の発行です。経理担当者が請求書を出していた場合、発行が止まれば、その分の入金も止まります。得意先の多くは、請求書が届かなければ支払いません。誰が、いつ、どの得意先に請求書を出すのかを、真っ先に決めてください。
請求書の書式や、得意先ごとの送付方法(郵送・メール・取引先のシステムへの入力など)も、担当者の頭の中にしかないことがあります。直近数か月分の控えを並べると、決まった形が見えてきます。
入金を確かめる
請求書を出したら、入金予定日に予定どおりの金額が入っているかを確かめます。経理の用語では「消込(けしこみ)」と呼ぶ作業です。入金が遅れている得意先には、早めに確認の連絡を入れましょう。
あわせて、退職した担当者が管理していた「まだ回収していない売上」の残りを確認しておきます。引継ぎの時期に請求した分は、入金の確認が抜けやすいところです。
4 出と入りを月ごとに並べる
支払と入金の予定がそろったら、月ごとに並べます。いわゆる資金繰り表です。難しく考える必要はなく、次のような表で十分です。
| 項目 | 11月 | 12月 | 1月 |
|---|---|---|---|
| 月初の預金残高 | 300 | 280 | 160 |
| 入金 | 500 | 480 | 520 |
| 支払 | 520 | 600 | 640 |
| 月末の預金残高 | 280 | 160 | 40 |
(単位:万円。数字は説明のための例です)
この例では、12月に賞与の支払、1月に法人税の納付が重なり、月末の残高が急に減っています。このように、支払の山がある月は前もって分かります。賞与、納税、労働保険の年度更新、固定資産税の納期などが、山になりやすい支払です。
足りなくなりそうな月が見えていれば、支払の時期の相談や借入の準備など、手を打つ時間が生まれます。少なくとも3か月先まで並べ、毎月、実際の数字で更新していくのが理想です。
5 社内に残す仕事と、外に任せられる仕事
経理担当者の仕事を一度書き出すと、性質の違う仕事が混ざっていることに気付きます。
お金の出し入れと支払の承認、請求書の発行は、事業そのものに直結する仕事です。これは社内に残し、社長ご自身か、信頼できる方が担うのが基本です。後任を置く場合も、振込のデータを作る人と、それを承認する人を分けておくと、誤りや不正の防止になります。
一方、記帳(帳簿付け)、給与計算、年末調整などは、決まった手順で進める仕事なので、外部に任せることもできます。社内に経験者がいない場合は、無理に一人で抱え込まず、分担を考えてみてください。
すでに顧問税理士がいる場合は、まず担当者の退職を伝えましょう。これまで誰が、どの資料を、いつ税理士に渡していたのかを確認し、受渡しの方法や、記帳をどこまで社内で行うかを相談しておくと、決算の時期に慌てずに済みます。
6 お金の流れを記録することが帳簿の基本
ここまでの作業で、お金がいつ、どこから入り、どこへ出ていくのかが見えてきたはずです。この出と入りを日々記録していくことが、帳簿を作るための基礎になります。
帳簿は、税務署に出すためだけのものではありません。毎月の帳簿ができていれば、その月にいくら利益が出たのか、この先の資金はどうなりそうかを、数字で確かめられるようになります。記帳は、お金の流れをつかむための道具です。
まとめ:最初の1か月でやること
- 通帳・届出印・インターネットバンキングなど、お金を動かす手段を確保する
- 通帳1年分から、毎月の支払と年に一度の支払を一覧にする
- 得意先ごとの入金予定を確認し、請求書を出す担当者を決める
- 支払と入金を月ごとに並べ、資金が足りなくなる月を確かめる
- 社内に残す仕事と外に任せる仕事を分け、記帳の段取りを決める
経理担当者が抜けた直後は、社長にとって負担の大きい時期です。ただ、お金の流れを一度自分の目で確かめておくと、その後の経営判断がずっと楽になります。まずは通帳を開くところから始めてみてください。
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